:: 雑誌「Number」について



現在定期購読している雑誌は,三つあります.「New Cycling」という日本で一番長い歴史を誇る自転車雑誌(最も古いにもかかわらず”New”),俗アート・建築系の「Casa Brutus」,そして今回話題にするスポーツ雑誌の「Number」です.

川の果ての更に果てに:スポーツジャーナリズムに,その「Number」について,以下のようなネガティブな記述がありました.

「この競技はこんなにも崇高なのだ。だから見る方も心して見なさい」みたいなすごい押し付けがましい意見とかが多いようにも見受けられる部分がある
それに対し,以下のようにコメントを返しました.
こんにちは.「number」と定期購読しているものです.この記事はけしからん.言語道断です(笑)
というのは冗談で(笑),こういった意見があるのは知っています.
(中略)
確かにこれは感じますね.ただし,基本的にフリーランスライターの集まりですから,個々人の思い入れの強さが出てしまっているのだと思っています.自分にしても,記事を読んで同感したり,そういう意見もあるのかという程度だったり,それは違うだろうだったり,様々ですね.
とここまで書いて,読む理由を書こうかと思いましたが,長くなりそうなので記事に書きます.

ということでコメントの続きを書きます.

「Number」を購読しつづける理由はいろいろあるのですが,ライターたち(ほとんどフリーランスのライター)の競技に対する愛着を感じられることです.これは,おしつけがましさとは表裏一体なのかもしれませんが,それによって,スポーツ新聞などにありがちな提灯記事ではなく,ライターとしてスポーツに真摯に向きあっている姿勢が感じられるのです.取材対象となる競技者に対して,ノンフィクションライターとしての緊張感ある姿勢が感じられるのです.

そういったライターの書く記事で構成されているのが,「Number」なのです.そういう意味では,スポーツに対してコアな雑誌と言えるかもしれません.音楽の好きな人ならスポーツ界の「rockin'on」といったらわかってもらえるでしょうか.

提灯記事と書きましたが,特定の競技に特化した専門誌ですと,その競技を対象として雑誌を作っている以上,競技を統括する団体の顔色を伺うような場面もあるのではないでしょうか.その点,「Number」は特定の競技を対象にしていないので言いたいことが書けるという面もあるように思います.ただし,数年前から広告スポンサーとのタイアップ企画で,記事なのか,広告なのかがはっきりしないものが増えているのは,残念ながら誌面を汚しています.新聞のように,広告なら広告とはっきり記述すべきでしょう.

上に書いたように,ほとんどの記事は,編集者やお抱え記者ではなく,フリーランスのライターを使っているので,記事そのもののクオリティが高いということも理由の一つです.連載などが書籍になっているように,ただのスポーツ記事ではなく,ノンフィクションとしても評価できるような文章に出会うこともあります.

それ以外の理由としては,スポーツ全般を幅広くカバーする雑誌が他にあまりないということもあります.プロ野球やサッカーなどメジャーなスポーツは他の専門雑誌を読めばいいのでしょうけど,スポーツ全般(スポーツというより競技のほうがふさわしい)に興味がある自分にとっては,スポーツ界をかなり広いレンジでカバーしている「Number」は有難い存在なのです.

バックナンバーを見てもわかるように,特集の二大勢力はサッカーと野球ですが,この他,定期的に特集が組まれるものとしては,格闘技,秋には競馬,日本グランプリの時期にはF1など,特集だけみても多岐に渡っているのがわかります.さらに,特集以外に目を向ければ,様々なスポーツの記事を読むことができます.陸上や水泳,スピードスケートやフィギュアスケート,バスケットボールやバレーボール,NFL,そしてツールドフランスの時期にはまとめ記事も掲載されたります.ただし,サッカーの特集が多いので,いささか食傷気味だったりします.特に,最近の困った時のオシム頼みというのは,なんとかしてほしいものです.

さて,日本ではスポーツが偉いといった風潮があり,とかく日本人は,運動するという部分でのスポーツという部分をありがたがる傾向があります.スポーツの祭典と言われるオリンピックが”Olympic sports”じゃなく,”Olympic games”だということを知ってる日本人はどのくらいいるのでしょうか.

そんな中で,競馬というものを賭けの対象としてではなく,純粋に競技・スポーツとして取り上げる雑誌が他にあるのでしょうか.

毎年ナンバーがその年に最も活躍したスポーツ人に授与する”Number MVP”というのがあるのですが,2005年のMVPは,ディープインパクトを駆ってその年に三冠を達成した武豊騎手でした.受賞に際し,武豊は次のようにコメントしています.

身に余る光栄と言ってもいい、素晴らしい賞をいただけることになりましたので、皆さんにご報告します。それは「ナンバーMVP賞」。なにそれ? と思われる方もいらっしゃるでしょうが、これはスポーツ界全体で、今年一年を通じて最も活躍した人に与えられる表彰なのです。伝統のスポーツ雑誌『Number』は、早い時期から競馬をスポーツのカテゴリーの一つとして取り上げてくれていることで好感を持っていた雑誌なのですが、そういう見識のある媒体からMVP に指名されたのですから、これは心の底からうれしい。

確か,MVP受賞者のひとりであるイチローも”どのMVPよりも嬉しい”といった意味合いコメントを残していたはずです.どちらにしても,「Number」に対するスポーツ人の評価の高さがわかるエピソードです.そしてそれは,競技に対する愛着と懐の深さを「Number」に感じるからなのでしょう.

以前,スポーツ・ジャーナリズムとは|オリンピック報道に苦言を呈すという記事で,次のように書いたことがあります(これも川の果てさんがらみだったのですが),

スポーツは自分でするのも,観るのも,記事を読むのも好きです.観戦したり,記事を購読してそれについて考えたり,というのは,自分が実際にするのとは全く違った知的な世界だと思います.なぜなら,スポーツ(競技)そのものにもですが,スポーツをする人々に興味があるのですから.
「Number」は,いろんなスポーツの様々な場面での知られざるドラマや機微を垣間見せてくれる貴重な情報源なのです.ドラマチックな写真が多いのも臨場感を醸成してくれていいです.

時にはおしきせがましいところもあるかもしれません.センチメンタルな感傷がすぎる記事もあるかもしれません.でも,ただ単に事実を追うだけ,コメントを並べるだけのものではなく,上質なノンフィクションがそこにはあるのです.しっかりとした取材に基づく,ジャーナリズムがそこにはあるのです.


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20:22 | Comment(4) | TrackBack(1)
Tags: 雑誌 スポーツ Number ナンバー ノンフィクション
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私もNumberに関して「前は良かったけど最近は…」と感じる派で、定期購読するのを止めてしまったものです。昔は大好きな雑誌でした。

私の印象では2002年のW杯以降、広告&タイアップ記事が飛躍的に増え、(以下は個人的な意見ですが)写真やイラスト、誌面全体のデザインの質が低調になってしまった。そして何よりマイナーな競技を取り上げる率が減ってしまっては…

もちろん、yanzさんのおっしゃるように個々のノンフィクションライターは力のある人がしっかりした取材をもとに記事を書いているのだと思います。がいかんせん雑誌の向いている方向が「目先の売り上げ」の方ばかり見ているような、そんな印象を受けてしまうのです。以前のようなスポーツの現場の熱気が誌面から感じられないのです。残念です。

長くなってしまいました、すみません。
Posted by kohiget at 2007/11/08 01:43

kohigetさん,いらっしゃいませ.そうですか.今は”Number”は読まれていないのですね.

ご意見ごもっともです.
確かに,タイアップの広告を始めたあたりでレベルが下がったのは同感です.その頃に,ナンバーのノンフィクション賞もなくなってしまってますしね.それに,サッカー&野球の二大勢力への偏りはどんどん大きくなってるのも感じます.

それもこれも,”目先の売り上げ”部数を追い求めた結果なんでしょうね.他に変わりがない雑誌ですので,なんとか建て直して欲しいですね.それとに,他にも個性的なスポーツ雑誌が出てきてくれるといいのですけどね.
Posted by yanz at 2007/11/08 22:14

「Number」は、見出しのセンスと雑誌の品格を感じさせる書体と写真の美しさがずば抜けていて、僕も好きな雑誌です。あと紙質のよさと適度な重さ?手に取ったときの感じがあんなにいい雑誌もそうはない。文章について意見を述べるほど熟読してないんでアレですが…。

ちなみに僕が「Number」を初めて読んだのは、巨人ファンの親父が買ってきた長島茂夫監督退任記念号。初めて自分で買ったのは、85年の阪神セリーグ優勝記念号。スポーツ雑誌なのに、選手の写真ではなく縦縞の招き猫を表紙にドカンと持ってきてて、あれを越える雑誌の表紙はいまだ見たことがありません。

ところで「Number」の広告タイアップ記事の走りって、2000年頃から始めた競輪とオートレースの記事でしょうか?どれだけ頑張っても野暮ったいPR活動しかできなかった両公営バクチが、「Number」に出るだけでもの凄くかっこよく見えたので、業界の広報担当の見識に感嘆したものです。最近はもはや末期症状なのか、出してない(出せない?)みたいですけど。
Posted by Naito Masayasu at 2007/11/09 00:22

Naito Masayasuさん,いらっしゃいませ.

いわれて膝を打ちましたが,見出しのセンスは感じます.とくに,特集につける見出しには,思わず口に出してしまうようなものがありますね.手に取った感じですか,確かに言われればそうかも.さすが,その筋のプロは見るところが違いますね.

広告タイアップの話.確かに,競輪やオートレースとのタイアップもありました.騙されて読んだ記憶があります.だからよく覚えています.競輪が最近おもしろいCMを流してませんでしたっけ.
競輪は世界選手権やオリンピックでもう少しよい成績が残せると記事にしてもらえて,それが一番効果的でいいんでしょうけどね.
Posted by yanz at 2007/11/09 19:51



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