設計: | 安藤忠雄建築研究所 |
所在地: | 香川県香川郡直島町3449-1 |
交通手段: | 岡山・宇野港から船で20分.宮ノ浦港から町営バスで20分. |
竣工: | 2004.07 |
訪問日: | 2007-6-16 |
うどんを食べた後は,海の駅で待ち合わせた町営バスに乗り,地中美術館に向った.
バスが着いた先は,地中美術館のチケットセンター.ここも安藤忠雄の設計である.ここは,美術館の入口ゲートまで100mくらい離れたところに位置している.ここでチケットを購入し,係員からオリエンテーションを受ける(建物の壁を手で触るなとか注意事項).そして,美術館内は撮影禁止で,ここにあるロッカーに荷物を置いていった方がいい言われる.なんだか暗にカメラを置いて行くように言われてるような気分だったのでそうなのかと訊くと.館内には持ちこめないという返事.ただし,向こうの入口でもカメラを預かってもらえるということだったので,せめて入口部分だけでもと思い,そうさせてもらう.わからないでもないが,このあたりはすごくナーバスになっているように感じた.ちなみに,ここに置かれていたイス(写真の黒いダイニングチェア)はvitraのもの.
美術館の入口ゲートまでの道の横には,クロード・モネが愛した植物を配した湿地の庭園が広がっている.色彩豊かな花々が咲いており,気持ちがいい.もちろん,池には睡蓮もある.
入口ゲートには,円筒状の空間に係員が待機していた.どうやらそこに,チケットセンターから「不届き者が約一名,カメラを持っていったので要注意!」と連絡がいったのであろう,カメラはそこで預けることになった.残念ながら写真はここまで.
以前の記事で,”地中にある美術館ということでは,昨夏に訪れたデンマーク コペンハーゲン郊外のフムレベックにある「ルイジアナ美術館」に影響を受けたのかもしれないという話も耳にしていた”ということを書いたのだが,あまり類似点を感じなかった.しいて挙げれば,
- 入口に対し,内部を想像できないほど奥行きが深い
- 回遊式になっていること
- 作品に合わせた部屋づくりがされていること
- 海が近く,海が見渡せるカフェがあること
それに対し,これはネタばらしになるが,地中美術館の特徴的な部分というのは,
- 作品に合わせた空間作り(そのため,アーティスト・作品数は圧倒的に少なく,設計時には,アーティストの意見を採り入れている)
- 建物自身が作品
- 自然光の採光の妙
さて,ゲートに続くスロープを抜けて中に入ると,暗い通路をしばらく直進する.通路を抜けると,地面には筒のような茎が伸びるトクサが植えられた矩形空間がみえたと思ったら,突然上から光が降り注ぐ空間にでる.いつ見てもコンクリートと緑という組合せは見事.トグサの直線性がこの空間にうまくはまっている.その矩形空間の部分(5m角くらいだったか)が吹きぬけになっていて,壁に沿って階段を上がっていく.ここでは,圧迫と解放,影と光の対比が圧倒的に迫ってくる.
そして室内へ.そこは,うす暗く無機質な空間.そう感じたのには,案内の館員が全て女性で,およそ美術館員らしからぬ特徴のない白い服を着ていることにも関係があるかもしれない(右の写真で右端の女性).村上春樹の小説に出てくるサナトリウムにいるような感じがした.壁と床はコンクリート,扉など金属類は艶のないブリキ,そして木でできた作りつけのイス.全体に暗い印象なのだが,そうだからこそ,上から漏れ降ってくる自然の光の中で空間が浮き立つ.
前述したように全て作品が,作品に合わせた空間のなかに置かれている.空間はその作品が完結するための重要な要素である.中でも,モネの睡蓮の絵が飾られた部屋は印象に残った.壁も天井も床も,全てが白.床には,一辺が20mmくらいのキュービック状に加工された大理石が規則正しく,無数に敷き詰められている.四枚の絵を飾るには広すぎる部屋そして高すぎる天井.天井と壁の交線からは自然光がまるで間接照明のように採光され,作品を優しく包むように照らす.その結果,睡蓮の絵は,壁に掛かっているのではなくまるで空間に浮んでいるように感じる.その空間の中では,まるでキューブリック監督の「2001年宇宙の旅」でボーマン船長が俯瞰する白い部屋に居るような感覚を覚えた.
作品を堪能したら地中カフェに行ってみて欲しい.ここから見渡す景色は素晴らしい.大きなガラスの向こうには,瀬戸内海が穏やかに広がり,その水平線の先には,高松市が蜃気楼のように見える.
少し話はかわるが,モネの睡蓮といえば,倉敷市にある大原美術館にも所蔵されている.倉敷といえば,直島からそんなに離れていない.実は,この次の日に大原美術館に行ったのだが,安藤忠雄も行ってるかもしれない.というよりも,モネの睡蓮を所蔵しているばかりでなく,私立ということも同じで有名かつ由緒ある美術館が近くにあるのなら,携わろうとしている者が訪れたとしても何ら不思議ではないし,そうしたいと望むはずだ.
その大原美術館に「工芸館」という建物がある.ここでは,主に日本の民芸に携わった6人の作家(濱田庄司,バーナード・リーチ,富本憲吉,河井寛次郎,棟方志巧,芹沢_介)の展示が部屋毎に行われており,人名を冠してそれぞれ濱田庄司室や棟方志巧室などと呼ばれている.この工芸館は元々は米蔵だったものを利用したもので,染色家として名高い芹沢_介その人が設計しており,その際,6人それぞれの作家の個性に合わせ,部屋毎に異なった意匠を施している.そして,その意匠の特徴の一つが床であり,木でできた直方体(木煉瓦)を並べた床や織部のうわぐすりをかけて焼いたレンガを敷き詰めた床がある.これをみて,真っ先に思い出したのは,前日に訪れたモネの部屋の白いキューブを並べた床であった.
安藤忠雄が地中美術館の設計前に大原美術館を訪れたとすれば,この工芸館という建物に注目しただろうことは想像に難くない.その思いは,建設当時(昭和45年),壁に石を貼る予定だったのを芹沢_介が変更して,コンクリートの剥き出しのままにしたという事実を知って確信に変わるに至った.
最後になったが,作品も素晴らしかったが,安藤忠雄の建築とそれが作り出す静謐で精神的な空間に身を預けるという時間は,至福の時であった.それは,薄暗い中に外の光が陰影を作り出すグレーの空間で,そこに据えられた木の長ベンチに座っているとき,それまで回りにいた人々が居なくなり,ふと一人になった瞬間に感じたあの感覚に繋がっている.その時,ウグイスの鳴き声がどこからともなく聞こえてきて(直島では,ウグイスの鳴き声はよく聞いた),壁に反射するオレンジ色の光の中でその声が木霊し,それまで近寄り難い清潔さを感じていたのだが,とても暖かく,懐かし感覚に満たされた.そうそれは,学校の放課後の教室で感じた懐かしいあの感覚だった.
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組み立ては進んでますか?
美術館なので撮影禁止は致し方ないところだと思います.建築も作品の一部のような感じですしね.コンクリートのところも壁などは不用意に触るなということでしたね.
「ブルーメの丘」は情報に感謝いたします.比較的近くですし,ここも行ってみたい場所ですね.それから長良川ですね.
ここ何日か、指をくわえて、yanzさんの直島レポートを拝見しておりました。
行きたい…
直島に私も行きたいよう(ToT)
うらやましいよう(ToT)
直島に行きたいと思ってもらえたようで嬉しいな.でも,我慢は体によくないよ(笑)必ず楽しめるから,時間ができたら行ってみましょう.
自分にとっても,地中美術館はまた是非訪れたい場所.1万円もする年間パスポートを欲しいと思ったくらい.