少し前から,わかる男たちはラジオに戻りつつあるようだ.
最近聴くラジオ番組といえば,ラジオ付目覚まし時計で寝るときに毎晩聴いているNHK「ラジオ深夜便」と社用車で移動するときによく聴くCBCラジオで平日の午前中にオンエアされているつボイノリオの「聞けば聞くほど」くらい.FM放送って何?というていたらくであった.
そのつボイノリオといえば,オールナイトニッポンやプリンプリン物語が有名かもしれないが,日本歌謡界に燦然と輝くかの名曲「キンタの大冒険」の作者である.自慢じゃないがじゃないが(要するに自慢だが),彼のCDを持っている.
そのつぼイノリオがDJをつとめるこの番組が面白くない訳がない.平日の午前中にもかかわらず,あけすけに臆面もなく,下ネタやエッチネタにもっていく巧みなる話術.リスナーのほとんどを占める奥様方が「また,こんなこといって.しょうがないわねぇ」とラジオの向こうでつぶやくのが聞こえてきそうだ.いや,その奥様方は嫌じゃないはずだ.それだけつぼイノリオの持っていき方は,あから様で,逆にすがすがしくもあるからだ.このたぐいの話術にかけては,今の日本に彼の右に出るものはいないであろう老練さである.
とまぁ,午前中に社用があってクルマに乗るときにしか聴けないのが悔しいくらいのくだらないクオリティなのである.これは最上級の誉め言葉であるが,何もここまで力説しなくてもと思わないでもないが.
話が横にそれてしまったが,そんなラジオと程遠い生活の中でのゆり戻しであろうか,ここ最近,FMを聴くためのラジオが欲しいなあと漠然に考えていた.
何かの都合で電気屋に行けば,ソニーのラジオの総合カタログを持ち帰ったり,amazonでラジオを探したりしていたのだが,ラジオを購入するまでは至らなかった.なぜなら,ラジオというものは,すでにニッチな製品になってしまっていて,そそるラジオが存在しないからだ.
今時の持ち運びタイプのCDプレーヤーには,ラジオが付属で付いているのを考えると,ラジオだけを買うという需要は,通勤途上の電車の中で聴くとか,自然災害のための備えというのが大半を占めているのであろう.そのため,販売されているラジオは,コンパクトであるとか,充電用のハンドルが付いているだとかが優先され,およそラジオ放送をよりよい音で聴くためという方向には作られていないものばかり.見た目のデザインもスペックもそれなりの感が強く,もっと言えば,やっつけ仕事的なニオイすら感じられて,製品としての魅力が欠けている.
そんな悶々とした日々を過ごしながらの数ヶ月前のある土曜日.仕事でクルマに乗って出掛けた帰りのこと.
名古屋高速を走っている時にラジオをつけていた.クルマのラジオはAMだけで,その時かけていたのは東海ラジオ 1332khz.別に何かあてがあるわけではなく,土曜日の夕方にどういう番組があるかも知らず,聴くとはなしに聞いていた.
ある番組が終わって次の番組がはじまった.その番組は,女性の声で進められていった.女性DJの声のトーンは淡々としていて,その感じがなぜかAMには似つかわしくなかった.番組と番組の間にスーッと組み込まれた埋め合わせのような番組という印象がそう思わせたのかもしれない.ただ,土曜日の夕方には似つかわしいとは思えないその声だったが,フロントガラスからみえる雨模様のモノトーンの寒々しい景色にはマッチして聞こえた.
DJが何について話をしていたのかは記憶にない.それは空気のようにそこに存在していただけだったし,水墨画のような景色に吸い込まれていってしまっていた.そのDJの話が途切れると,一曲目が流れた.どうやら,そういうスタイルの番組のようだった.
Dasty Springfield "The Look of Love"
かなり違和感を覚えながら,
「バートバカラックか.最近聴いてないな」
なんてハンドルを握りながら漠然と考えていた.それにしても,土曜日の夕方のAMラジオでダスティ・スプリングフィールドの歌うバート・バカラックを聴きたいと望んでいたリスナーがどれだけいるのだろう.前の番組の続きで聴き続けているリスナーばかりなのだろうからそうではないだろう.いや,もしかしてリスナーなんて自明なものですらないのかもしれない.多くの人にとっては,電源を切る手間を惜しむようにかかり続けているラジオから流されるただの音なのかもしれないから.先ほどまで,自分がそうだったように.
曲が終わり,DJの他愛の無いおしゃべりを挟んで,次の曲がはじまった.ゆれのある独特のヴォーカル.間違いない.彼の声だ.ここでモリッシーをかけるか.ますます混乱させやがる.曲が終わると,静かにその長い曲名は告げられた.
Morissey "Such a Little Thing Makes Such a Big Difference"
現代のそれもAMでモリッシーがかかるなんて.と半ばあきれながらも,ちょっぴり次の曲が待ち遠しい自分がいた.そして,次の曲は,
The Auteurs "Valet Parking"
混乱は確信に変わる.それを見越したかのように,DJはさらに先へと淡々と進めていく.そして,最後の曲がはじまる.
Elvis Costello "Shipbuilding"
チェット・ベイカーのトランペットがもの悲しげに響く中,何かが体を満たし,突き抜ける感覚.この感覚はなんだろうと思いつつ,思い至る.そうだ.これは学生時代にかじり付くようにして,FMを聴いていた時の感覚だ.これはCDでは,例えそれをシャッフルしても,到底味わえないもの.次にオンエアされる曲をワクワクした思いで待ち続けたあの感覚.
覚醒とはこのことであろうか.このことが,翌月になって部屋にチューナーが持ち込まれる発端の出来事となった.竹輪野 : 紀香の結婚とオヤジを癒やす箱 でマランツのチューナーの写真を拝見して,実家に帰ったらマランツにはかなわないものの単体のチューナーの二,三台が転がっているであろうことを思い出したのだ.そう.それはエアチェックに勤しんだチューナーだ.
そして持ち帰って設置されたのが,写真のYAMAHAのチューナー.これまた懐かしいT字型アンテナを壁に貼り,電源を入れるときは少し胸が高鳴った.少ししてスピーカーから音が流れ出す.そのノイズ混じりの音は,こう言っているように聞こえた.
「おかえり」
Back to the radio.
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わたしもつボイノリオファンです!毎日聞けば聞くほど聞いてます。「インカ帝国の成立」と「雪の中の二人」は最高ですね?!
同感です。あの話術は右にでるものはいませんね。あの永六輔も認めているぐらいですからね。
私がこの記事で真っ先に喰いついたのは"つぼいノリオ"です(笑)。
確か80年代の前半あたり、つぼいノリオ氏は京都のKBSの深夜ラジオで猛威を振るっておりました。難しい社会ネタを巧みな"枝葉話術"で下ネタまで昇華させる技は見事でありました。天才です。翌朝の学校は感染者で溢れかえっておりました。ホント懐かしいです。。
いまでは便利なものがあって自由に留守録できます。でも、語学の放送と一緒でリアルタイムで集中して聞くのが一番なのかもしれません。
増えました。少し前までは殆ど聞くことは無かったのですが・・・・ほんと面白いネタの宝庫ですよね〜。。
テレビ無しでAMラジオの生活。
演歌なんて聴くわけない、と思っていたのに
近所の共同温泉から帰ってきて
畳の部屋でラジオから流れてくる
ノイズ混じりの演歌なんて意外といいもんですな。よく冷えた瓶の麒麟ラガー飲みながらね。
つボイノリオのファンですか.永六輔のお墨付きでしたか.やっぱりねえ.
あの立川談志師匠が「キンタの大冒険」を名曲だと断言してましたよ.
それにしても,これほど,つボイノリオに食いつきがいいとは...(笑)
ほぼ『CBC』を聞いてます。
例外は神宮での野球の時(仕方なく1332)と
月曜の20時台(NHK)と日曜の14時
(FM-A)。
当然つボイ氏の番組も鶴光さんの番組もチェックしてます。ただ、仕事の合間なので
ずーっと聞けないってのが辛いところです。
人生相談そのものも,話のネタにしてしまってますよね.
司会の児玉清さんが聞いたらあきれるかも(笑)
「うーん,そうとってくるか」って,わかりませんね(笑)
そういえば,一時期関西で盛り上がってましたね.ご存知かもしれませんが,つぼイノリオは愛知県一宮市の出身なので,現在は戻ってきたという形ですね.
そうそう.まさしく「"枝葉話術"で下ネタまで昇華させる技」は素晴らしく,今ではますます磨きがかかって黒光りしているようです.
それにしても,皆さん,つぼイノリオへの食いつきは尋常じゃあないですね(笑)
USBチューナーの件,そのニュース見ましたよ.mattaさんも情報が早いですね.
このUSBチューナーは面白そうですけど,逆に今までなかったのが不思議なくらいです.留守録できるのはいいですね.
> リアルタイムで集中して聞くのが一番
おっしゃる通りで,特に,AMはそんなライブ感覚がありますよね.
ラジオを聴いてると,思わぬところで興味深い話をしていたりしますね.特に,NHKなんかがその傾向が強いですよ.
そんなときは,思わず聞き入っちゃいますね(笑)
テレビなしでラジオだけの生活ですか.上には上がいるもので.そういう生活,憧れます.
演歌には,まださすがに抵抗していますが(笑),ラガー飲みながらAMラジオを聞くとはなしに聞くというのは,とても贅沢な時間の過ごしかたですよね.
おお.マニアックな人にコメントいただきましたね(笑)
山下達郎のSONGBOOKも聴かれてるんですね.次回は,夫婦でオンエアらしいですね.
月曜日の20:00のNHKってのは,何でしたっけ?司会者が4人のゲストに質問していくのでしたっけ?ここまでくると,マニア過ぎてわかりません(笑)
鶴光は相変わらずですよね.女性アナがかわいそうというか,公共の電波でセクハラとは...(笑)
知多メディアスは、FM開局するので市民からDJ?とか募集するみたいです。
テレビのない生活なのですか.うらやましいというか,そこまでできると潔くていいんだけど,俗世界が捨てられません(笑)
知多でもミニFM局ですか.KATCHもPITCHというFM局を開局してるのですが,開局前はDJを募集していた気が...でも,結局,ミニFM愛知みたいな中途半端な感じになってますね.もうちょっと特色出せればいいんですけど,FMに思い入れがあってやってるわけではないでしょうから難しいでしょうけどね.
しかし、最終週だけは「新話の泉」。
談志師匠が出てくるので聞ける時は聞いてます。
つボイ氏の「金太…」最高のコミックソングと認めている師匠ですので…。
(先月?くらいの放送の時にそんなことを口ばっしてました。)
ステージ収録で談志師匠が仕切っているのを聴いたことがあったのですが,それなのですね.
toppo5mtさんもなかなか渋いところを聞かれているんですね.
「キンタの大冒険」の中には,”キンタ,マカオに着く”という歌詞があるのですが,談志がここだけはいただけないと言ってたのを読んだ気が...(笑)