:: 「道路交通法改正試案」に対するパブリックコメント #2 | my public comment



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前回の「道路交通法改正試案」に対するパブリックコメント #1 では,試案の内容について説明しました.今回はその続きです.

自分の立ち位置を少しでもはっきりさせるために,近日中に提出予定のパブリックコメントを掲載します.かなりの長文になっていますし,なにぶん書き上げたばかりなので,微妙におかしげな表現や誤字・脱字はあるかもしれませんが,そういった枝葉末節はご容赦願います.

なお,試案内容については,こちらをご覧ください.


警察庁交通局交通企画課法令係 パブリックコメント担当 殿

標記の件,「道路交通法改正試案」についてのパブリックコメントを述べる.

結論から述べると,「1 悪質・危険運転者対策の推進 (4)救護義務違反に対する罰則の強化」に対し更なる厳罰化を望み,「3 自転車利用者対策の推進 (1)通行区分の明確化」(以下,3(1)項と記載)について断固反対である.なお,それら以外の項目については賛成である.

ここからは,後者3(1)項について詳述する(前者1(4)項については,詳述はしない).

この3(1)項は大きな矛盾を抱えており,今後の交通社会を良くない方向に進める危険性を持っていると言わざるおえない.3(1)項が存在するままでの法改正は,到底承服できるものではない.したがって,法改正に際しては,3(1)項の削除,または,下記の内容に沿った全面的な見直しを要求する.

以下(a)〜(g)に,反対する理由を述べる.

(a) 本文「現在、自転車は、車道通行が原則とされ、例外的に道路標識等で通行することが認められている場合に歩道を通行することができることとされていますが、必ずしもこれによらず、自転車の歩道通行が言わば無秩序になされている状況が見られます。」および参考「警察では、自転車の通行に関する無秩序な状態を改めるため、歩道通行要件を満たしていない場合や自転車本来の走行性能を発揮した走行を行う場合には原則どおり車道を通行するよう、交通安全教育や街頭指導を強化していくこととしています。」について

ここでは,自転車の歩道走行があたかも自転車運転者の自然発生的な行動によって引き起こされたかのように表現されているが,これは間違った認識である.現在の道路交通法では,歩道走行を認められているのはあくまでも"一部"なのであるが,それ以外の歩道において,警察が歩道走行を励行してきたのは周知の事実である(警察官の乗る白色の自転車すら許可されていない歩道を常時走行している).つまり,警察は,長い間,法とは異なった行動をとってきたのである.そして,自転車を曖昧な立場に放置してきたという交通行政のツケのせいで,自転車の歩道通行が常態化してしまったのである.したがって,自転車の歩道走行の常態化は,警察自らが招いた事態であることを認識するべきであり,自然発生的に歩道走行が慢性化したかのような表現はあきらなか事実誤認である.
さらに,本試案の元となった「自転車の安全利用の促進に関する提言」(以下,提言と呼ぶ)をまとめた「自転車対策検討懇談会」について,設置の際に以下のような報道があった.
------------------以下,引用------------------------
<自転車対策>歩行者事故の増加で検討懇設置 警察庁
 歩道を猛スピードで走る自転車に歩行者がはねられるなどして起きる交通事故が年々増加していることを受け、警察庁は自転車運転者のマナー向上の対策などを有識者に議論してもらう「自転車対策検討懇談会」を今月12日に設置する。また、信号無視や酒酔い運転など悪質な違反を行う自転車運転者への取り締まり強化を求める通達を近く全国の警察に出す方針で、深刻化する自転車の事故対策に乗り出す。(毎日新聞- 4月6日)
「ストップ、暴走自転車」 警察庁が取り締まり強化へ
 車にとっては危なげで、歩行者の近くを猛スピードで駆け抜けるなど「危険」という批判が多い自転車の安全対策を進めるため、警察庁は通行方法や歩行者の安全確保などの検討に乗り出すことを決めた。法律や工学の専門家、業界の代表者ら7人と同庁で構成する「自転車対策検討懇談会」を設け、今月12日に初会合を開く。(asahi.com 2006年04月06日)
-------------------引用,終わり----------------------
どちらも同じこと,つまり「歩道を暴走する自転車は危険との批判を受け,歩行者の安全のために対策を検討する」ということを言っている.先にも記述したように,警察が歩道での歩行者と自転車の混在を放置するばかりでなく,奨励すらしてきた結果,歩道内では自転車と歩行者が無秩序に混在することになり,衝突や接触などの事故が発生したのである.それを今になって,「歩道を行く暴走自転車はけしからん」などと言い出し,懇談会で検討をしはじめるのは,あまりにも無責任な話である.
以上のような,無責任な事実誤認を改め,まず警察がやるべきは,試案の本文にある「自転車の通行区分について、車道通行の原則を維持しつつ」を指導し,徹底することであり,これの浸透なくして,参考「自転車と歩行者・自動車の適切な共存を図るための自転車の走行環境の整備」は達成できるはずがない.ただし,これは既にある法律に則った行動であるので,法律の改正は必要としない.警察が行動を改めればいいだけである.

(b) 歩道での歩行者と自転車の混在の危険性と試案の矛盾について

(a)で述べたように,歩道での歩行者と自転車の混在を放置してきた結果,歩行者との衝突や接触が社会問題になってきた.両者は歩道と言う狭い空間での同居を余儀なくされており,当然の結果である.これを是正するために取るべき手段は明確であり,歩行者,自転車,自動車をそれぞれ分離するしかない.これは当然の帰結であり,万人が納得するものと考える.しかしながら,3(1)項は,歩道での歩行者と自転車との混在を推し進めようとしている.あきらかな矛盾である.
なお,対象が子供に限定されるから歩道走行を容認してもいいという論理は,必ずしも正しくない.運転技術や運動能力の面で劣る子供や老人が運転する自転車が歩道に共存することの方が,歩行者にとっての危険性が高まることを考慮しなければならないからだ.
自転車の安全走行については,下記の私案(試案のことではない)にも記述しているが,インフラの整備こそが真の解決策となりうるものである.具体的には,車道部分の路側帯を自転車専用走行帯とすべきなのである.必要であれば,歩道を削ってでもそうすべきである.
このことは,提言の2(1)p.20に「自転車の走行環境整備の在り方自転車の迅速・快適な通行を確保するためには、自転車道又は車道における通行空間を確保する必要がある。この点について、自転車の歩道通行が認められている道路であっても、自転車の走行性能を発揮するような方法で車道を通行しようとする自転車があることを踏まえ、自転車の走行環境を整備する必要があることに留意すべきである。」と書かれていることを実現させるということのみならず,自転車の走行区域が明確になることにより,子供や老人を含め,全ての自転車にとっても安全が高まることを意味している.場所によっては,必要に応じ,走行帯と車道の間にポールなどの障害物を設置することも検討すべきである.いずれにせよ,これが実現すれば,自転車と歩行者の事故が無くなるばかりでなく,自転車と自動車との事故も激減するであろう.
つまり,繰り返しになるが,最適な方策が現行法案内で実現可能であり,この観点から考えても3(1)項は不要である.
ただし,整備されるまでの過渡期について,緊急避難的に歩道を利用することは,年齢・性別に関係なく,全ての自転車利用者に容認されるべきである.そのことのみを簡潔に(等など曖昧な表現は必要ない)一義的に記述するというのであれば,例えば「普通自転車が例外的に歩道を通行することができる場合の要件は,安全を回避するための緊急避難の場合だけとする」,検討の余地はある.ただし,これとて警察が現在そのような認識で運用していない(歩道走行の奨励)ことを是正することが大前提としてある.

(c) 「自転車の安全利用の促進に関する提言」第4の2項(4)「自転車が車道を通行することが特に危険な場合は,当該道路の自転車通行を禁止するなどの措置を講ずること」(p21)について

試案3(1)項の参考部分に「3(1)〜(3)の改正は、自転車対策検討懇談会が平成18年11月に取りまとめた「自転車の安全利用の促進に関する提言」を踏まえ行うものであり」と書かれている.したがって,そこには「自転車の安全利用の促進に関する提言」の中の第4の2項(4)「自転車が車道を通行することが特に危険な場合は,当該道路の自転車通行を禁止するなどの措置を講ずること」が包含されているものと考える.
この部分は,将来的には警察が自分達の判断で車道走行を禁止できることを意味しており,ここにも歩行者と自転車を同一空間である歩道に押し込めようとする警察の意図が読み取れる.その危険性については(b)で述べた通りであるが,仮に自転車が歩道しか走ってはいけないということになれば,自転車は短距離での移動の手段でしか使われなり,愛好者は激減するであろう.昨今,環境問題や健康増進などへの関心の高まりに関係し,自転車愛好者が正当に増加しており,わが国に真っ当な自転車文化が形成されるかどうかの瀬戸際にきている.(c)で挙げた提言の2(1)p.20に書かれていることも,このことを指しての提言であることは言うまでもない.それに対し,試案3(1)項や提言第4の2項(4)は,それとは対極を行く内容であり,これは自転車という優れた移動手段を捨て去ることに繋がり,到底承服できないばかりか,国益にも反するものである.

(d) 自転車にとっての歩道走行の危険について

自転車にとり,歩道を走行することが必ずしも危険回避に役立っていないのも事実である.なぜなら,横断歩道や車道あるいは私有地から歩道を横切る自動車との出会い頭の事故など別の危険が潜んでいるからである.このことを防止する上でも,(b)で述べた路側帯への自転車専用走行帯設置が必要なのである.

(e) 交通安全教育について

(a)でも挙げたが,参考部分に「警察では、自転車の通行に関する無秩序な状態を改めるため、歩道通行要件を満たしていない場合や自転車本来の走行性能を発揮した走行を行う場合には原則どおり車道を通行するよう、交通安全教育や街頭指導を強化していくこととしています。」と記述されている.
街頭指導は,その場しのぎになりがちであり,その効果の程も知れている.ここで必要なのは,全ての人に周知徹底することである.そのためには,全ての自転車利用者への教育徹底の仕組み,具体的には,小中高校生など未成年者を対象とした教育システムを構築することが肝要である.つまり,提言第5(2)p.23に「今後は,中学・高校生に対する自転車安全教育をより充実させていくべきである」と書かれている通りである.ただし,そのシステムが行き渡るまでの過渡的な時期には,免許更新時の講習やTVのCMなどのメディアを利用した啓蒙が必要であることは言うまでもない.
さらに,現時点では,自転車の車道走行原則のルールに対する啓蒙活動は全く実施されておらず,このことを知らない自動車のドライバーが大多数である.しかるに,(a)で述べたことの繰り返しになるが,自動車のドライバーや歩行者に対し,「自転車の車道通行の原則」を指導し,周知徹底することが必要である.

(f) サイレントマジョリティの考慮

今回の試案を知らないであろう多くの人たち,つまりサイレントマジョリティのことも考慮に入れる必要がある.その全てが歩行者であることを考えれば,サイレントマジョリティの意見は,小生の意見と同等であると考えるのが妥当である.つまり,この試案が実現し,必然的に歩道で危険に晒されることを好むものはいないということである.

(g) ネット上のオピニオン

インターネットでの発展は目覚しく,ブログやSNSといったツールを利用し,個人の意見を簡単に発信できるようになった.実際,日本のブログ人口は868万人(2006年3月末時点,総務省集計)と利用者数は年々増加の一途を辿ってきており,オピニオンの形成に一役かうようになってきている."道路交通法改正試案 自転車"や"自転車の安全利用の促進に関する提言 自転車"で検索すれば一目瞭然であるが,個人のブログやwebサイトにおいて,今回の試案や提言の中の上記指摘事項に対し,肯定的な意見を表明されているサイトを見つけることはできないばかりか,否定的な意見を述べているサイトばかりである.この事実を真摯に捉えるべきである.

以上が反対の理由であるが,次にその対策について,私案を述べる.
歩行者と自転車を分離させるのは勿論として,自転車と自動車(オートバイも含む)の分離をしてこなかったことが原因となって,自転車が法律で認められていない歩道に退避せざる負えなかったのである.それを是正する必要があるのは,言うまでもない.その具体的な方策は次の通り.

●インフラ整備
(基本) 現行法の通り,路側帯を自転車走行専用帯とする
(オプション) 路側帯に充分なスペースが確保できない場合,歩道を狭くして,路側帯を確保し,自動車走行専用帯とする(歩道がなければ,現行のまま)

●運用面での対策
・自転車走行帯に対する法改正とドライバー・歩行者への周知徹底(路駐および進入禁止)
・自転車帯での自転車への権利の付与(警笛解禁など)
・自転車乗りへの教育徹底(特に,未成年者や年配者)

残念ながら,現在の路上では交通弱者と言われる歩行者,自転車は隅の方に追いやられ,そこのけとばかりに我が物顔に通り過ぎる自動車に道を譲るしかない.そして,交通弱者が優先されるのは,事故にあったときだけという歪んだ自動車優先の社会がここにある.
歩道は歩行者だけのものであり,自転車とは相容れないということを大前提として,今こそ交通弱者を優先するという方向に舵を切るときである.今回の試案はそれに逆行するプランで,ここに,道路空間の歩行者・自転車・自動車への適正配分による豊かな未来展望は見い出せない.これでは,よりよい交通社会は達成できないばかりか,混乱をきたすだけである.

このことを素直に認め,再考してもらい,交通弱者優先の交通社会を作るべく前向きな提案がされるよう願うばかりである.
今ならまだ間に合う.そして,歩行者.自転車・自動車など道路を利用する全ての者が納得できる喜ばしいものであれば,賛成し,協力は惜しまないつもりである.

以上

このパブリックコメントというのがどんな位置付けで,寄せられた民意がどういった過程でどのように評価されるのか,はっきりとはわかりません.位置付けとしては,様々な層や立場の国民から,広く,多くの意見を求めるというものなのでしょう.であれば,数もそうですが,中身も重要になるような気がしますが,どうなのでしょう.

次回では,このあたりをもう少し掘り下げてみるつもりです.


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22:53 | Comment(2) | TrackBack(0)
Tags: 道路交通法改正試案 パブリックコメント 自転車 車道 歩道 警察 警察庁
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わたしも頑張って続き書きます。
仕事中になんだかトーンダウンして帰ってきたのですが、
yanzさんの#2を読んでちょっとやる気になってきました。
でも、何を書くつもりでいたのかちょっと思い出せない…
Posted by toppo5mt at 2007/01/19 00:42

toppo5mtさん,いらっしゃいませ.
思ったことを率直に書ければいいのですけど,それがなかなかできないですよね.頭ではわかっているのに,言葉として出てこなかったりね.かと思ったり,ポンっと出てきたりですね.
Posted by yanz at 2007/01/19 23:47



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