最初,アイツは,従順にボクの後ろをついて来てたんだ.
ちょっとした坂道でも,息を絶え絶えにしてさ.
もう少し坂がきつければ,接点から外れそうになりながら,
なんとかね.
そんな時,決まってアイツは,ボクにむかってこう言った.
「You're a fool up on the hill!」
そんなアイツが変わり始めたのは,いつの頃だったか,
確か,オリのような埃が堆積した路地裏を行った時だった.
柔らかい夕陽の光が,束になって幾筋も差し込んでいた.
光の束の中で,舞い上がった埃がチリチリと,
それは綺麗に舞っていたのを,今でも覚えている.
その光の中で,アイツは何かに魅せられてしまったんだ.
それが何だったのかは知る由もないけど,それが切欠だったのさ.
次の日,アイツはボクの後ろを離れ,ボクの右側にやって来た.
そう.チェーンのある方だ.
その時のアイツの恍惚とした表情は,今でもはっきり覚えている.
驚いたかって?そりゃあ,驚いたさ.
その時のボクにできることといったら
「まあそんなこともあるさ」
と気を落ち着かせることぐらいだったのだから.
その数日後,今度は左側に来た.
真剣な眼差しだったよ.
そして,ほどなく右と左を自在に,行ったり来たりするようになった.
でも,もう驚かなかったね.
そして一週間後,ついにアイツは,ボクを追い越し,前を行くようになった.
時折,ボクを振り返って微笑むような余裕まで見せてさ.
それからだ.ボクとアイツのドラッグレースがはじまったのは.
ある時はボクが先を行き,またある時はアイツが遥か先を行く.
そんなことの繰り返し.
しばらくは,この状態が続きそうだけど,それもいいかなと思っている.
さすがのアイツも雨の日は苦手なようで,おとなしくついてくるだけだしね.
それに,アイツの恍惚とした表情をみてると,
なんだか忘れてしまったものを思い出せそうな気がするんだ.
- Photo with long words:
- Bike on the run
- Ride Don't Walk
- Walls come tumbling down
- End of destruction|依佐美送信所
- Clouds travel unexpectedly fast|意外に雲は早く移動する
- wandering 'bout the backstreets|路地裏を行く
- Fool up on the hill
- 僕が旅に出る理由
- Ride Don't Walk