:: イッセー尾形のとまらない生活2006in名古屋|少しだけ,イッセー尾形論

2006/03/29
┣ その他


IMGP0844.JPG世間のありふれた人たちをモノローグで演ずることによって,その姿形(すがたかたち)と立ち振るまい,そしてその背景にある世相までをも,くっきりと浮かび上がらせるイッセー尾形のひとり芝居.
その新作発表の名古屋公演,3日間で合計4ステージあったうち,土曜日の夜間(3/25 19:00〜)のライブに行ってきました.この夜,イッセー尾形にサーブされる最上の料理に舌鼓です.
会場はいつものテレピアホール.ビルの自動ドアを入ると,山藤章二作のお辞儀するサラリーマンのポスターが,いつものようにお出迎え.もうすっかり気分は,ひとり芝居です.

今回は,幸運にも最前列のチケットが手に入り,臨場感溢れるなかで新作を堪能できました.ひとり芝居では,舞台中央に5m角くらいのひな壇が置かれ,その上で演技が行われます.身につけるもの以外,小道具はほとんど使われません.今回も座るシチュエーションの時にイスを使っただけです.そして,ひな壇左手の袖脇に,衣裳や鏡が置かれた着替えスペースが設けられます.着替えスペースも舞台の上なので,イッセー尾形の生着替え(パンツ姿付き!)やメイク姿が観られるのです.着替えも演目の一部ということです.この夜,座った席は丁度ひな壇の左端で,演技は勿論,生着替えもバッチリ見学できる(笑),ベスポジでした.

IMGP0846.JPG
テレピアホールは,T列が最前列

話は変わりますが,コンサートも含め,最前列のチケットを入手できたのは,今まで一回だけありました.アメリカで観にいったJohn Hiattの野外コンサート(at Deer Creek Center in Indiana).チケットマスター(ぴあみたいなもの)で普通に買ったんですが,驚いたことに,これが最前列でした.会場に入るときに,チケットもぎりの兄ちゃんに「Oh! You got a front row ticket! Enjoy!」とかなんとかと,とにかく楽しく送り出してもらったのを覚えています.

さて,ひとり芝居で最前列に座ると,後ろの座席では遠くてわからなかった発見があって面白かったです.例えば,演技中では,ツバが意外に飛んでいるとか(笑) それから,とても真剣な顔で着替えやメイクをしているとかです(まるで観客がいないかのようにです).でも,なんといっても,最前列に座れて感激したのは,演じている最中の活き活きとした顔の表情ですね.あれのお陰で,イッセー尾形がどう演じようとしているのか,どういう風に感じ取らせようとしているのか,ということがよりダイレクトに感じられた気がしました.もちろん,笑いは倍増です.

開演に先だって,イッセー尾形自身の声によるアナウンスがあります.いつものことですが,”非常灯を消灯するので緊急の際にはスタッフの指示に従ってくれ”という内容(読み上げ途中で噛んでたのだけど,もしかして,あれもライブ?).

そして,いよいよ開演です.客電が消灯され,真っ暗になります.そして,ひな壇にスポットライトが当り,まるで前からそこに居たように,おばあさんに変装したイッセー尾形がスッと現れます.この暗転が重要なのです.これは,開演の時だけでなく,衣裳替えを終わって次の演技を開始する時にも同じように行われます.言うなれば,この暗転が次の演技を開始するにあたってのトリガー(キッカケ)になっているのです.数秒間の暗転で,観客の頭からその前の演技の残像を消し去り,リセットさせる仕掛けなのです.観客にとって心地よい暗転.アナウンスしてまで非常灯を消すというのは,こういう理由からなのです.

さて,ここで登場人物とそのシチュエーションを覚えている範囲でリストアップしてみます(ネタバレに注意!).太字は,この中でも,大いに笑わせてもらったものです.

1.ハイカラなおばあさんが美容室に現われる
フラワーホーム(ケアハウス?)を逃げ出して来たハイカラなおばあさんが美容室に現われ,珍問答を繰り広げる
2.コンビニお姉ちゃん店員
7-11の店員が同僚に語る日常些細なこと,店の前に別のコンビニができてヒマになって嬉しい,最近探偵の素行調査を受けている姉が家の中でも作り笑い,自転車でおばあさんの顔面を殴打事件,左手に持っていたモスを落として,左手でキャッチ
3.交通整理員の旗振りおじさん
手旗を忘れた相棒と意思疎通できず,うまく誘導できない,ドライバーから野次られ,落語で現実逃避
4.いつものバーの侘しい大晦日風情
いつもの店内.違っているのは大晦日ということ.三人で今年の重大事件を言い合ってるうちに思い出す.客からもらった玉手箱.冷蔵庫の中に見つけ,あけてみる.入っていたのは5円玉.
5.足が霊にとり憑かれ,動けない掃除婦ヒトミちゃん
江戸時代最後の日に足を縛られたまま隅田川に投げられ,殺されたおときさんが,ラブホテルの清掃作業中のヒトミちゃんの足にとり憑く.ヒトミちゃんイスに座ったまま仕事できず.
6.ボクシング会場の警備員宅を訪れたお騒がせ青年
試合でリングに乱入し,警備員に止められた青年が,その警備員宅を訪問する.すぐタメ口になり,怒られる
7.大家族のお父さん,派遣会社で面接
派遣会社で面接を受けるお父さん.そこに現われる内山さん.実は,この会社の筆頭株主である内山さんの口利きだった.そこにお父さんが心配で見に来た子供たち.
8.愛犬フレデリックを亡くした紳士
お百度参りをしたという秋田犬のフレデリック.ウクレレを弾く,首にマフラーを巻くダンディな中年男性.「おぉ(驚)フレデリック、目覚めたか!‥‥んなわきゃぁない、‥‥奇跡はおこらんよ」を合図に,数曲熱唱
内容については,ツキブログさん が詳しく載せておられますのでそちらを参考に.
ツキブログ:イッセー尾形のとまらない生活2006 in 小倉

どの演目にも,シチュエーションとは全く関係ない話を,登場人物がしはじめるという場面が挿入されています.例えば,美容室を訪れたおばあさんの話.これが非常に複雑.京大出のギョーザ屋さんの元カノのナオコが話すドイツ留学中の昔話ってわかるかい!それから,コンビニお姉ちゃん店員が働いてる最中に,自転車に乗っていておばあさんを避けようとしてブレーキをかけた拍子に後輪が持ち上がり,おばあさんの顔面を殴打したけど,二人とも笑っていたとかの話をするなどです.

フィクションの中のフィクション.あるいは,フィクションの入れ子構造.

平行に置かれた鏡の中に,ひょいと顔を突っ込んだ時に見える無数の自分の顔.そんな一種の万華鏡感覚に奇妙な倒錯感に襲われました.実は,これが笑いに奥行きをつけているというか,さらなる笑いを誘っている気がします.様々な場面でそういった逸話が登場人物の口から語られるのですが,これが登場人物のキャラクターのイメージ造成に大きな役目を果たしているのは間違いないですが,この虚構錯綜世界の中で観客はバランス感覚を崩し,演技するイッセー尾形を見失い,あたかもその人物が語っているような気になってしまうのです.先ほどのコンビニ店員の話で言えば,顔面殴打の話の後に,唐突にモスバーガーの話をしはじます.モスバーガーを左手に持っていて,それが滑ってあやうく落としそうになった時に,同じ左手で無事キャッチしてよかったという話です.ここで反射的に,会場は大爆笑.この話,店員が語らなくてもいいはずですが,この時,観客の目の中にイッセー尾形はいませんでした,いるのは,まさしくコンビニのお姉ちゃん店員だったんです.

もろもろ書きましたが,今回の中で一番のお気に入りは,時間が最も短かった交通整理員のおじさんの話です.コンビを組む相棒が手旗を忘れたばっかりに意思疎通ができず,両方から車を通してしまい,お見合いさせてばっかりいるという場面です.ドライバーから罵声を浴びせられ,困った挙句の果てに,それを誤魔化すため,あるいは,現実逃避するために大声で落語を語りはじめる.自分が悪いわけじゃないのに叱られるという男のオロオロする心情が,なんとも言えずユーモラスで大いに笑わせてもらった.この旗振りのおじさん,最後には,「自分リストラ!」と叫んで旗を放り投げてオシマイ.オチもバッチリ決まりました.

いきなり話は変わって,岩館真理子というマンガ家の古い作品に,二人の女の子の出てくる話があります.そのそれぞれの女の子が主人公になった(一人称に語るという意味)作品がそれぞれ存在します.ある作品では,片方が主人公,もう一つの作品では,別の一人が主人公になっているのです.そして,おもいしろいことに,それぞれの作品の中に,全く同じシチュエーションが登場するのです.主人公が違うので,絵そのものは違ってくるのですが,同じ時間の同じ場所の同じ場面が描かれます.同一時空間に存在する二人ですが,その瞬間,それぞれが思ってることや感じてるは違っているはずで,それを見事に描ききっており,最初にこの作品を読んだときには,作者の着眼点の素晴らしさとそれを作品に昇華させる技量にとても興奮した記憶があります.イッセー尾形にもこういうインターラクティブな登場人物を演じてくれないかと切に願います.例えば,今回の演目で挙げれば,人材派遣会社で大家族のお父さんに対峙する内山さんを演じるとか,ボクシング会場の警備員を演じるとかです.考えただけでも,顔がニヤついてしまいます(笑) なお,岩館真里子のマンガに登場する人物は,なんとなくユーモラスでイッセー尾形の演じる人々に通じるところがある気がします.

さて,終演後には,いつものようにサイン会です.イッセー尾形のライブでは,会場で売られているグッズやDVDなどの購入者に,本人がサインをしてくれるのです.こんなライブは他には見たことはありません.これに限らず,このファン・オリエンテッドな姿勢は,イッセー尾形にまつわる全てのこと,森田オフィスが取り仕切っているのですが,に共通しています.公式サイトでの運営にしてもそうですし,ぴあがまだ電話での予約しかしていない時に,ネットで購入できるシステムを自前で作り上げてしまったりとか,このあたりもファンを惹きつける理由なのだと思います.

会場でDVDを購入したので,今回はじめてサインしてもらいました.そして握手してもらい,挙句の果てには,一緒に写真まで撮ってもらいました.写真を撮るために,わざわざスタッフが一人待機していてくれているのです.折角だから,握手する時に,「交通整理のおじさんが面白かったです」と言っておきました(笑)ハッと顔を挙げ,優しく微笑んでくれました.この時ばかりは,誰でもなく,イッセー尾形,その人でした.
IMGP0847.JPG
approved by Morita office


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イッセー尾形オフィシャルウェブサイト:Issey Ogata Home
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23:17 | Comment(4) | TrackBack(1)
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:: comments on entry
TBありがとうございました。

私はイッセーさんのお芝居初めてで、しかもテレピアホールも初めてだった為、席の順番が逆って全く知りませんでした。
当日前から2列目の席だと知り、かなり興奮しました。

ちなみに私はラブホの掃除婦さんがツボにはまりました!
Posted by ataha at 2006/03/30 14:49

こんちは、初めまして。
イッセーファンに悪い人はいない、という私の思い込みより、
TB返しさせていただきましたぁ(笑)どーぞ、よろしく。

来月の博多公演行きます(^^)v
真ん中最前列ですっv(^^)vうひ〜♪



Posted by つき at 2006/03/30 17:26

atahaさん,いらっしゃいませ.はじめてが,2列目というのはラッキーでしたね.今まで後ろでしか座ったことがなかったので,最前列の迫力は素晴らしかったです.イッセー尾形のサイン会は驚いたでしょう.アットホームでいいですよね.ヒトミちゃんがツボですか.ヒトミちゃんは連載物なのでまた会えるかもしれませんね.では,コメントありがとうございました.
Posted by yanz at 2006/03/30 21:56

つきさん,コメント&トラックバックありがとうございます.つきさんの記事は大変参考になりましたよ.でも,よくあれだけ覚えておられますね.感心しました.今度は,博多ですか.短期間に二箇所で観られるとは,羨ましいですね.それも最前列ですか.いいですよ〜.迫力が違います.では,記事upしたらトラバ下さいね.
Posted by yanz at 2006/03/30 22:02



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