スポーツは自分でするのも,観るのも,記事を読むのも好きです.観戦したり,記事を購読してそれについて考えたり,というのは,自分が実際にするのとは全く違った知的な世界だと思います.なぜなら,スポーツ(競技)そのものにもですが,スポーツをする人々に興味があるのですから.それに加えて,スポーツの醍醐味とは,勝敗の行方に一喜一憂したり,素晴らしいプレーにため息をついたりする,その刹那だけに存在するのではなく,自分のひいきのチームが勝った後や応援する選手が活躍した後に,ある時はニタニタしながら,またある時は誇らしい気持ちを持ちつつ,それをスポーツ番組で繰り返しみたり,翌朝にスポーツ新聞を買って読んだりする行為の中にこそ潜んでいると思うのです.
さて,イチローがメジャー・リーグに渡って活躍しはじめた時以来,日本のメディアが伝えるステレオタイプな情報に物足りなくなり,現地のメディアをネット上で見る機会が増えました.
MLB公式サイトをはじめ,例えば,espn,Sporting News,Sports Illustrated-CNN,USA TODAY,The Seattle Times や Seattle Post-intelligencerなど現地新聞社のwebサイトはよく訪れます.また,Netsports.comのFORUM(日本で言う所のBBSに近い)などを覗けば,ファンが本音で熱い議論を繰り広げられているのです.
今回のWBCでの日本チームの優勝でも,もちろん,同じことをする訳です(笑) ここでは,そのいくつかを紹介することによって,アメリカのメディアのWBCに対する報道,日本が優勝したことへの報道を紹介してみたいと思います.
以下は,MLB公式サイトに掲載されていたMike Baumanのコラムから(以下,日本語訳は筆者).
MLB:Japan just one of the Classic winners by Mike Baumanこの受け答えを聞いたアメリカの記者連中は大爆笑だったようだ.同じ記事で,イチローに関する興味深い話が紹介されている.
When he was asked what part of Japanese baseball would improve the Major Leagues, he replied: "If there's anything I can bring back to the Major League from the Japanese style, I would say that they would need to clean up the dugout a little bit more because I've experienced so many filthy dugouts in the States. I would like to suggest that seriously. "
彼(イチロー)は,「日本の野球がメジャーリーグを向上させることがあるとすれば,それは何か?」という記者からの質問に対し,次のように答えた.「もし,日本から何かメジャーリーグに持ってくることができるものがあるとすれば,汚らしいダッグアウトをもう少しキレイに使うということですかね?ほんと,真剣にそう願いたいですね」
Here, in this tournament, the Japanese would seem to have the edge in passion over the Americans. Ichiro himself has displayed much more emotion here than normal. "This was my first time to play for the Team Japan," he said Sunday, "and I do think that I have the Japanese flag on my shoulders, so that might be the primary reason that I became so emotional in these games at the [Classic]."
このトーナメントで日本選手はアメリカの選手に対し,より熱意をもって取り組んでいるようにみえる.イチロー自身もいつもより感情を露にしている.それに対し,日曜日の会見でイチロー次にような発言をしている.「今回,私は日本代表チームで戦います.私は自分の肩に日の丸を背負っているつもりで戦っています.それが,WBCの試合で感情を露にする理由です」
The Japanese flag on his shoulders. You did not believe that the members of Team USA played as though they carried the Stars and Stripes on their shoulders. The U.S. had a team, but it was a collection of individual talent. Here, the greatest star of the Japanese team feels both the pride and the weight of national responsibility and has no problem discussing publicly how it has changed his on-field emotional state.アメリカチームの低迷について,現地記事では,準備不足だったというのをよく見かけましたが,選手たちが国を背負っていたかというところも大きな原因のひとつでしょう.
イチローが肩に日の丸を背負うということ.アメリカ・チームの選手が肩に星条旗を背負ってプレーをしたとは思えない.アメリカはチームを選抜したが,そのチームはただ単に個人プレーヤーを集めたにすぎなかったのだ.しかし,日本チームの偉大なスター選手はプライドと国民からの重責を感じてプレーをし,フィールドで感情を露にする理由を素直に吐露したのである.
それから,NBAがドリームチームで他の国に勝てなくなったのと同じことも言えると思います.つまり,すでに野球の世界では,メジャーリーグのスター選手をただ連れてくるだけでは勝てないのです.NBAが代表チームからアレン・アイバーソンをはずしたように,戦略的な選抜が必要だったはずです.ただし,日本でも辞退者が出たように,ベストメンバーではなかったということは事実としてあると思います.しかし,アメリカがメンバー選抜にあたって,そこまで必要性を考えていたかは疑問です.
先に紹介したスポーツ好きの集まるフォーラム Netsports.comにはInternational Baseballというカテゴリーがあって,WBCに関してファンの書き込みがされています.その中に,"Looking Back On the WBC..."と題されたスレッドが掲載されています.
I'm thinking to myself, What will we think of the WBC 30 years down the road. Would we be happy that we saw the first ever WBC? Don't care because it fell apart early? Do you think the WBC will last for a long time?という問いかけに対し,以下のような回答が寄せられている.
30年の間構想されてきたWBCについてどう思う?我々は史上初のWBCを観られて幸福だったと思うべきなのか?それとも,時期尚早ではなかったか?WBCは,この先も継続されていくのだろうか?どう思う?
Two images from last night's montage made me smile uncontrollably - Ichiro grinning with his arms around two Cuban players for a picture, and Hank Aaron laughing with Oh before the game (even though they were acquainted already). This was a great event. It's going to last.
二つの映像で思わず微笑んでしまったよ.一つは,写真を撮るためにイチローが両脇のキューバの選手を抱えて写っているもの.もう一枚は.ゲーム前にハンク・アーロンが王と談笑しているもの.元々二人は知り合いだったかもしれないけどね.これは素晴らしいイベントだったと思う.そして,続いていくんじゃないかな.
That was absolutely great! A picture is worth a thousand words. The Cubans showed real class by congratulating their opponents after their defeat; and their smiles in that picture was totally genuine.
あの画像はすごくよかったよね.千の言葉と同じくらい価値のある画像だよ.キューバの選手は,試合に負けた後でも負けた相手チームに対して祝福できる度量があることを示したよね.画像に写った彼らの微笑みはすごくよかった.
Anyway, I loved the shot of Ichiro with the Cuban players. If that image doesn't translate to the true meaning of "Baseball Spoken Here," I don't know what does. That image is classic and tells the story of what the WBC is supposed to be...playing for your country and playing for all of baseball.ここで語られているイチローとキューバ選手の肩を組んだイメージを探したのですが,残念ながら見つかりませんでした.でも目の前にあるように思い浮かべることができます.負けて悔しいはずなのに,イチローと写真を撮るキューバ選手とそれを嬉しそうに受けて立つイチロー.なんと微笑ましく,誇らしい光景でしょう.そして,それにも増して,その写真一枚をありのままに評価し,リスペクトするファン.なんと,すがすがしい連中でしょう.ここに,スポーツを愛する理由そのものがあります.
いずれにせよ,イチローとキューバ選手のシーンはいいよね.あの画像こそが,"Baseball Spoken Here"というWBCの理念を表したものじゃないかな.あれこそがクラシックとして残っていくものだし,"国のためにプレーする,全ての野球のためにプレーする"というWBCのあるべき姿を示していると思うね.
それにしても,今回のWBC.日本の快進撃もさることながら,予選プールで韓国に負けたときの落胆振り,そして,キューバに勝ったときの盛り上がり振りを見ると,この国で,いかにみんなが関心を持っているかということがわかりました.なんでも,新聞の号外を受け取るのに争ってケガ人がでたほどです.プロ野球の低迷ぶりなんてどこ吹く風.
野球そのものに興味があるのか,日本代表というものに興味があるのかは,サッカーでも同じように,疑わしいものがあるのですけど,少なくとも,これだけ歴史があって,庶民生活に根付いている野球というスポーツです.この国の国民が嫌いなはずがないと思いたいです.日本の記事ですが,イチローも次のように言っています.
SPONICHI ANNEX:イチロー信念で導いた世界一
「みんなで喜べることなんて遠ざかっていたので、思い出させてくれた。次回?声がかかるようにしていかないと」。一呼吸置いて「自分のことなんて…。野球人気の低迷が言われていますが、野球って素晴らしいって見てもらえたらうれしい」と付け加えた。
- 関連リンク:
- '06 WORLD BASEBALL CLASSIC
- MLB公式サイト
- 川の果ての更に果てに:Do you have any doubt? Japan is the best!(tb)
- 川の果ての更に果てに:WBCをちょっと冷静に見る(tb)
- MLB公式サイト
- 関連エントリー:
- スポーツ・ジャーナリズムとは|オリンピック報道に苦言を呈す
- オプションとエンターテインメント 下
イチローとキューバの選手が並んで写っている写真ですか。何かいい話ですね。私も見てみたかったです。
今日からセンバツも始まりますが、短期決戦の魅力は独特の魅力があります。
プロ野球のように長いシーズン制で試合数も多いと、どうしても数字で語られがちですが、高校野球やWBCには数字を排除した野球の原点があり、だからより野球の面白さがダイレクトに伝わってくるのかもしれませんね。