音楽に貪欲だったあの頃,雑誌で知ったのだったか.それとも,渋谷陽一の「サウンドストリート」あたりのラジオ番組だったのかもしれない.
小山卓治の曲で,最初に聴いたのは,デビュー曲「フィルム・ガール」だったと思う.その曲で興味を覚え,それ以来,ずっと聴き続けている.その曲が収録された,デビューアルバムの「NG!」のジャケットに,銃弾に倒れたジョン・レノンを伝えたダコタ・ハウスのTV映像が使われていたことは,強烈に印象に残っている.そして,そのアルバムの一曲目は,ダコタ・ハウスの住所がタイトルになっていた.その時,この人は,ジョン・レノンが好きなんだなと思ったものだ.ビートルズじゃなくて,ジョン・レノン.
後に,あるラジオ番組で小山卓治が「4人のフェイバリット・ミュージッシャンがいる」と言っていたのを聞いた.その4人とは,John Lennon,Bob Dylan,Tom Waits,そして,Bruce Springsteen.
1984年にリリースした二枚目のアルバム「ひまわり」に続き,1985年にサード・アルバム「Passing」を発売する.このアルバムのA面ラストを飾る曲「Passin Bell」は素晴らしい曲で,ライブでも一番のハイライト曲であった.ただ当時,聴衆があまりにもこの曲を求めるものだから,それに嫌気がさしたのであろう,一時期,ライブで演奏しない時期があったように記憶している.サザン・オールスターズが「いとしのエリー」を演奏しなかった時期があったように.
この曲は彼のキャリアの中でも代表曲の一つであるに違いない(この他にも,よい曲は沢山あるが).日本のロック界において,マスターピースの一つと言っても過言ではないはず.
小山卓治公式サイト RED & BLACKの Discography の中で,この曲に対し,以下のコメントがつけられている.
「Passing Bell」とは、「とむらいの鐘」という意味だ。この歌を作れたことで初めて、自分が向かおうとしている場所がはっきりと見えた気がした。〈Takuji〉この曲は,自ら命を絶った者を弔って地元に集まった友人たちの言葉がつづられていく.5人が代わる代わる登場し,それぞれの思いのたけを吐き出し,弔う.4人目に息子を失った父親が,その寂念の想いを吐露する.そして彼らは,静かに「思い思いの形のグラスに1本のシャンペンを注ぐ」のである.
Passing Bell -帰郷-
詞:小山卓治 曲:小山卓治
夕刊の片隅 懐かしいあいつの顔写真
その晩電話のベルがいつもより静かに鳴った
俺達はバッグに黒いスーツをつめ込み
それぞれの街からあいつの眠る街へ急ぐ
ディランを口ずさみながら
むし暑い夜を抱いて
苦い握手と笑顔
昔とおんなじジョーク
テーブルの周りで俺達は
思い思いの形のグラスに
1本のシャンペンを注いだのさ
この街には敵とそして犠牲者しかいない
ここから最後まで逃げだせなかった男
13階のオフィス 仕事が終わったその足で
廊下のダストシュートに頭から飛びこんだらしい
あいつはいつも言ってた
俺はクズみたいな男さ
弱音さえ吐けなかった
負け犬に乾杯
テーブルの周りで俺達は
思い思いの形のグラスに
1本のシャンペンを注いだのさ
この街を最初に飛びだしたのは私だった
ヒットチャートを昇って輝く笑顔を手に入れた
シルクハットに恋してみんなが肩をすくめた時
私を照らすのはまあるいスポットライトだけ
あの曲憶えてるでしょ
イントロはピアノとバイオリン
さあ歌うわ私
拍手をちょうだい
テーブルの周りで俺達は
思い思いの形のグラスに
1本のシャンペンを注いだのさ
昔からみんなに優しい男と呼ばれてた
疑うことも知らずにあの子と一緒になったんだ
この春に生まれた子供にあいつの名をつけた
ありふれた暮らしのどこが悪いんだい
こんな目に会うくらいなら
死に急いだやつが利口だ
息子の魂のために
グラスを上げてくれ
テーブルの周りで俺達は
思い思いの形のグラスに
1本のシャンペンを注いだのさ
身の上話など俺には関係ないことだ
流れ者にだって楽しむ権利はあるさ
みっつ目の名前で新しい仕事を始めた
今ではあの街の顔役に収まった
しこたま儲けた金で
みんなに酒をおごれる
だけど今夜初めて
泣けてくるのはなぜだ
テーブルの周りで俺達は
思い思いの形のグラスに
1本のシャンペンを注いだのさ
時計はいつまでも遅すぎる夜を指している
若さなんて棒に振るもの 俺達の口癖だった
雨の夜のために残しておいた哀しみを
テーブルに並べて俺達は静かに笑う
ラジオは調子っぱずれ
ふるさとの歌を歌ってる
外はどしゃぶりの雨だ
さあもう1杯やろう
テーブルの周りで俺達は
思い思いの形のグラスに
1本のシャンペンを注いだのさ
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