
はじめて買ったアルバムは,発売時に買ったこの「Sound Affects」だった.
まだ様々な曲を聴き始め,自分の趣向を拡大させていた頃のことだったが,最初にこのアルバムを聴いた時,今ひとつピンとこなかったのを覚えている.peakyで素っ頓狂な曲調に慣れていなかったからだと思う.
そんなアルバム中で「That's entertainment」という曲は気に入って,繰り返し聴いていた.といっても,LP盤は今のように簡単に1曲を繰り返しできないので全部を繰り返し聴いていた.
アコースティック・ギターで単調に繰り返される,シンプルでいて心地よいコード・カッティング,そしてそれに乗っかる淡々としつつも伸びやかに,そして時折抑えきれずに感情が現れるPaul Wellerのボーカルがカッコよかった.
そのThe Jamで思い出すのは,若かりし頃のこと.
春休みだったか夏休みに,帰郷していた友人の運転する車に乗って,その友人の東京の下宿まで行ったことがあった.下宿に居候させてもらいながら東京をほっつき歩こうというつもりだった.その友人とは,高校時代に一緒にバカをやった仲であり,音楽的にも影響を及ぼしあっていた間柄だった.
友人はYMOとかテクノ系を好んで聴いていたはずだが,車の中では自分が勝手に持ち込んだ大量のカセット・テープでガンガンにロックをかけた(笑) そして,その中にThe Jamもあった.友人は,The Jamを聴いたことなかったようだったが,何曲めかに「Down in the tube station at midnight」という曲がかかった.それまでノンストップで運転してきたので休憩しようとサービス・エリアに入ったところだった.それを聴いていたアイツは,あろうことか「ポールアンカの『ダイアナ』そのままじゃん」ってのたまったのだ(笑) そして,その曲を聞きながら「ダイアナ」をかぶせて歌いはじめたのだが,それが驚いたことにピッタリはまったのだ.だから最終的には,アイツの意見に同意せざる負えなかった.Paul Wellerのパクリ(もとい,同じ名前の大歌手へのオマージュ)だったのか,それともロックンロールの少ないコード進行の中での順列組合せの問題だったのであろうか.
その当時の僕たちは,年相応に(若気の至りともいう),キャッチーなものやポピュラーなものは,万人に理解できるものとの解釈で卑下する傾向にあった.だから,怒れる若者を体現していたThe Jamともあろうものが,そんなキャッチーで,有名な曲にそっくりな曲を演奏しているなんて...とアイツはしてやったりの顔をしていた.そして,その曲の後に「That's entertainment」がかかったのであるが,アイツ曰く「これはいいね.これなら好きだな」
まあ,昔のことなので水に流そう.それに,その後に再訪したアイツの下宿に,Style Council*1のデビュー・アルバム「カフェ・ブリュ」が密かに置かれていたのを知ってるから(笑)
- *1:
- 実は,先日のエントリー「Walls come tumbling down」も彼らの曲のタイトルから取っている
さて,この曲の詩は秀逸である.映像が鮮やかに浮かび上がる.それは,まるで上質のインディペンデント映画のワンシーンを観ているように.
この5月にPaul Wellerのライブアルバム「Catch-Flame!」が発売されるが,その中にもこの曲は収録されているようだ.どんなアレンジで聴かせてくれるのだろうか.
それこそは楽しみである.
That's Entertainment - Paul Weller, 1980
A police car and a screaming siren -
A pneumatic drill and ripped up concrete -
A baby wailing and stray dog howling -
The screech of brakes and lamp light blinking -
That's Entertainment.
A smash of glass and a rumble of boots -
An electric train and a ripped up 'phone booth -
Paint splattered walls and the cry of a tomcat -
Lights going out and a kick in the balls -
That's Entertainment.
Days of speed and slow time Mondays -
Pissing down with rain on a boring Wednesday -
Watching the news and not eating your tea -
A freezing cold flat and damp on the walls -
That's Entertainment.
Waking up at 6 a.m. on a cool warm morning -
Opening the windows and breathing in petrol -
An amateur band rehearsing in a nearby yard -
Watching the tele and thinking about your holidays -
That's Entertainment.
Waking up from bad dreams and smoking cigarettes -
Cuddling a warm girl and smelling stale perfume -
A hot summer's day and sticky black tarmac -
Feeding ducks in the park and wishing you were far away -
That's Entertainment.
Two lovers kissing amongst the scream of midnight -
Two lovers missing the tranquility of solitude -
Getting a cab and travelling on buses -
Reading the graffiti about slashed seat affairs -
That's Entertainment.
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パトカーがサイレンを鳴らしながら走る
空気ドリルでめくり落とされるコンクリートの破片
泣きわめく赤ん坊とうろつく野良犬の遠吠え
急ブレーキのタイヤの軋む音と点滅するブレーキランプ
それこそは楽しみ
砕け散るガラスとそぞろ歩きのブーツ
電気仕掛けの列車と引き裂かれた電話ボックス
ペンキが飛び散った壁と野良猫の鳴き声
消え行く街灯とボールへのキック
それこそは楽しみ
月日は高速で過ぎ去る中,ゆっくり過ぎる月曜日
退屈な水曜日には雨に降られ
TVでニュースを見ながら,君の入れた紅茶を残す
凍えるように冷たい部屋と湿った結露した壁
それこそは楽しみ
涼しくも暖かい朝の6時に目覚め
窓を開け放し,石油臭い空気を吸い込む
近所でアマチュアバンドがリハーサルする音
TVを見ながら,週末のことを考える
それこそは楽しみ
悪夢から目覚め,タバコを数本吸う
暖かい彼女に寄り添って寝ながら,彼女の安物の香水の匂いをかぐ
暑い夏の日 溶け出し粘りつく漆黒のアスファルト
公園でアヒルに餌をやり,彼女とは潮時かなと考える
それこそは楽しみ
二人の恋人が,真夜中の叫びの中でキスしている
二人の恋人は,孤独の静寂を見逃している
タクシーを捕まえ,バスを乗り継ぎ移動する
シートでの情事に関する落書きを読み耽る
それこそは楽しみ
ポール・ウェラーという名前を目にする度にそんな昔の事を思い出しております。
「ロジャース」ですか.渋いですね.確か,「Our favorite shop」というアルバムに収録されていたんではなかったでしょうか?あの頃は,「Shout to the top」がヒットして知名度も上がっていた頃でしたね.
ポール・ウェラーという人は,その活動や考えが軸が振れない人で,そこに共感するファンも多いと思います.私もそうです.
”Down in the tube station at midnight”の詩もカッコイイです.記事の中ではへんなことを書きましたが,ヴォーカルの力というか,Paul Wellerが歌うからカッコイイというのはありますね.
僕は"All Mod Cons"が好きで、Down in the tube station at midnightを初めて聴いたときはそのカッコよさに心底痺れました。まさに言葉の奔流っていうか、最後の方のテンポアップしていくところが何ともたまりません、、、ということでこの曲に1票入れますw
(本当は歌詞も含めてかなりヘヴィーな曲ですが。)
ちなみにスタカンでは、Walls come tumbling downが大好きです!
”Down in the tube station at midnight”に一票ですか?(^^) 確かに,エンディングにかけてのテンポアップの部分は,なんとも焦燥感を掻き立てられてcoolですね.この曲も映像が思い浮かびますね.
>スタカンでは、Walls come tumbling downが大好きです!
趣味が会いますねえ(^^)
いい歌詞ですね。そしていいエピソードです。
ウィル・フェレル主演の『主人公は僕だった』というdvdを見て検索してきました。この歌は、とても重要なシーンの挿入歌なんですよ。
That's entertainmentが使われている映画というのははじめて聞きました。紹介されているのを拝見しましたがおもしろそうですね。
俺もこの曲好きですよ。
こんな歌詞だったんですね・・・。
「Going Underground」みたいな社会批判をダイレクトに書いたもの曲とはまた違う魅力も感じます。(もちろん「Going〜」好きですよ。)
この「That's Entertainment」にもビートルズの曲の一部分が所々で散りばめられてて、面白いですよね。
「Things We Said Today」のようなカッティング重視のアコギのリフ、「You Won't See Me」を彷彿とさせるポルタメント系に上昇してからの「Laah, laah」といった感じのコーラス。「Tommorow Never Knows」や「I'm Only Sleeping」を思わせる逆回転エレキギター。
ビートルズを敬愛するウェラーならではのビートルズへのオマージュかもですね♪
ビートルズがお好きなようですね。この曲とビートルズの曲でオマージュを匂わせるものがあるとは気付きませんでした。