今回は,この事実をスポーツ界を例に取り上げて考えてみたいと思います.前回は,図らずもアメリカ人論のようになってしまった訳ですが,本当に書きたかったのは,今回書く内容の方なのです.
スポーツと言えば,代表的な娯楽(entertainment)です.娯楽の王様といってもいいでしょう.ここでのスポーツとは,実際にする方ではなく,観る方のこと,プロ・スポーツのことです.スポーツがentertainmant(娯楽)の王様であるなら,アメリカ人が放っておくはずがありません.さらに面白くする工夫,すなわち,option がテンコ盛りなのです(笑)
(1) ポスト・シーズンまたはプレーオフ
プロ・スポーツでのオプション(option)と言えば,最初にこれが思い浮かびます.アメリカの四大プロスポーツ,MLB,NFL,NBA,NHLとも,プレーオフ制度を持っており,ここでシーズンの優勝チームが決定されます.ここで負ければ,THE END.いくらレギュラー・シーズンでトップの成績をあげても,優勝しても意味がなくなります.そういう意味では,レギュラー・シーズンはあくまで,ポスト・シーズンへ進出するための一ステップの位置付けになっています.オプションがメインを喰っているといえばいいのか,矛盾した言い方ですが,すでにオプションではなくてメインになっているとも言えます.本末転倒あるいは主客逆転.本末転倒や主客逆転という言葉は,批判する時やよくないことを言うなど,ネガティブに使われる言葉ですが,オプションに重きを置かない日本では,これを上手に表現する言葉はないのかもしれません.
日本のプロ野球のパ・リーグには,レギュラー・シーズンの終わった後に,リーグチャンピオンを決めるプレーオフという制度があります.この制度に対し,喧々諤々の議論があります.
2005年度シーズンは,レギュラー・シーズンで優勝していない千葉ロッテマリーンズが優勝しました.それに対し,福岡ソフトバンクは,レギュラー・シーズンで優勝しながらプレーオフで負け,リーグ優勝できないということが二年続いています.これについて,イチャモンを付ける意見をたびたび聞く.曰く「何のためのレギュラー・シーズンなんだと」という訳です.プレーオフというオプションを含めて戦って,そこで勝ってこその優勝だということに合点がいかないのですね.気持ちはわからなくもないですが,最初からそういうルールがあるのだからレギュラー・シーズン云々は,関係ないはずです.これは,よくも悪くも保守的なお国柄,ということに関係するのかもしれません.
プレーオフをオプションという観点で考えると,その導入によって,活性化させ,パ・リーグのエンターテインメント度が向上したのは間違いないはずです.物議を醸し出していると書きましたが,活発な議論がなされているという,そのことも含めて活性化しているのです.これこそ,まさにオプションの有効性なのです.
これに対し,2005年度のNFL.大本命のインディアナポリス・コルツ(Indianapolis Colts)がワイルドカードのピッツバーグ・スティーラーズ(Pittsburgh Steelers)にサクッと負けてしまいました.大番狂わせ,英語でいう所の Big upset でした.NFLのみならず,スポーツ界を代表するスーパースターであるペイトン・マニングというQBを擁するコルツは,レギュラー・シーズン13連勝を含む,14勝2敗というNFLチーム トップの成績でプレーオフに進出しました.ほとんどの人がコルツのスーパーボール進出は間違いないと予想していたはずですし,それを望んでいたと思います.そのコルツがあっけなく負けてしまったのです.それもレギュラー・シーズンの成績がプレーオフに進出したAFC6チーム中第6シードというスティーラーズにです.スティーラーズは,そのあとも勝つ続け,AFCチャンピオンとなり,その勢いのまま,スーパーボールを制覇してしまいました.先程のパ・リーグで例えれば,2005年度プレーオフに勝率5割を下回る成績で出場した西武ライオンズがそのまま勝ち進み,日本シリーズで優勝してしまったといったところです.しかしながら,それでもアメリカからは,プレーオフという制度そのものを批判する議論がされているといったニュースは聞こえてきません.スーパーボールを制覇したスティーラーズを称える記事はあっても,くさす記事は見当たりません.
これは,アメリカのファンやスポーツジャーナリズムがそれだけ成熟している,ということに他ならない証左です.
(2) ドラフト
アメリカのプロ・スポーツでは,ドラフトでの指名権をトレードしたり,ドラフトの指名権を選手同士のトレードの糧にできる仕組みになっています.例えば,トレード1位指名権を2,3巡目の指名権とトレードしたり,トレードで獲得した選手の交換代償が来年のドラフト○巡目の指名権ということが日常茶飯事に行われています.
アメリカンスポーツ・スクウェア ブログ館 でわかりやすく解説されています.引用します.
アメリカンスポーツ・スクウェア ブログ館:ドラフト改革アメリカではドラフトそのものが,人気のあるコンテンツであって,試合を同じようにファンの楽しみになっています.ゴールデンタイムだったか,ウィークエンドだったか忘れましたが,そういった時間帯に大々的にTVでライブ放映されるのです.その中で,上述したような想像できない取引きがされるのです.最初観たときは,何をしているのだろうと思っていたのですが,仕組みが理解できるとワクワクものでした.
NFLが行っているドラフト指名権のトレードというのは日本でも実現可能ではないかと思う。NFLの場合、ドラフトは前年の成績によるウェーバー制。選手側にも「この年ドラフト1番目の指名権を持っている○○には行きたくない」という意向を持っている選手も出てくる。また、球団側にも何年か先に戦力になるルーキーを獲得するよりも即戦力ベテランが欲しいという場合も出てくる。
そんなときに行われるのがドラフト指名権のトレードである。いの一番の指名権をトレードに出して、ベテランを獲得したり、ドラフト1巡の指名権をドラフト2巡の指名権を交換しプラス選手をもらったりしている。(中略)
ドラフト1巡1番目の指名権をもっているのが、パ・リーグの球団だとして、有力新人がセ・リーグの球団に行きたいという意向を持っていれば、そのパ・リーグ球団は、ドラフト1巡1番目の指名権をセ・リーグ球団にトレードし、その代わりベテラン選手をもらう。
日本のプロ野球のドラフトはというと,有料のスカパーでしか見られない,それも実施されるのは平日の昼間という状況です.このあたりからも,いかにオプションの重要性をわかってないかがわかります.また,指名権がバッティングすれば,クジ引きがありますが,基本的に予定調和のロビー活動の世界.全くワクワクしません(笑)
でもネットの世界を見ると,2chのプロ野球板では,球団毎のドラフトのスレッドが立ち,活発に書き込みがされています.ファンは次シーズンの新戦力をワクワクして待っているのです.もっと,やりようがあるのではないでしょうか?
そういう意味では,日本のプロ野球では,球団オーナーだけが権限を牛耳っており,それが根本の問題となっています.アメリカのプロ・スポーツがそうであるように,コミッショナーに権限を委譲しないと,球団の思惑だけで右往左往することになります.そして,そのトップに,そのスポーツに理解があって,これが重要なのですが,ビジネス感覚のある人を抜擢することができれば,劇的に変われると思うのです.
当たり前ですが,プレーオフにしても,ドラフトにしても,誰かが,そういう制度を作ったからできることであって,制度を作らないとできません.そういった制度(しくみ,サービスと言い換えてもいい)を作るということは,それが選択を増やし,エンターテインメントに繋がるからそうするのです.それを理解している人々が各方面(フロント,選手,マスコミ,ファン)で増えれば,スポーツ界は活性化するはずです.
POの際に、私はマリーンズを全面的に擁護し、反対しているところに「アメリカだと〜だよ」とコメントしていました。
が、大抵「日本とアメリカは違う」とバッサリ切られていました。そういうものとして取り入れたんじゃないのかなぁと反論したくなるんですけどね。
ドラフト改革は大勢の人が望んでいるでしょうし、もっとエンターテインメント制に富んだものにしてほしいです。
などなど言うと、アメリカかぶれと叩かれるのがオチなのでしょうけれど…
アメリカかぶれ大いに結構です.所詮,日本における娯楽としてのスポーツは,近代になってから発達したのじゃないでしょうか?江戸時代の武道など娯楽どころか,スポーツというものでさえなかったでしょう.
誰が見ても,アメリカのスポーツ界は成功しています.よいところは,チームもファンも,素直に柔軟に取り入れればいいんですけどねえ.一度掴んだ権限を手放さない人や保守的な人がいるからなあ.困ったもんです.
未だ個人の近代化がされていないこの国には,スポーツを娯楽として観るなんて,とんでもないことで,スポーツは精神修養の場だと信じている人が多いのでしょう。
娯楽=オプション
そう言った意味で,選択肢を広げてくれた野茂選手の生き方に共感します。
今回のトリノ五輪でメダルが取れなかったことに対し,遊びの要素が足りないからだという意見が新聞に掲載されていたそうです.
野茂選手は,果敢に異国に打って出た先駆者であり,もっともっと評価されるべきですよね.野武士のようです.今シーズンも早くメジャーにあがって活躍して欲しいものです.