:: 『いつか読書する日』



いつか読書する日
『いつか読書する日』(緒方明 監督 2004年 日本)
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ずっと,ずっと,あなたに触れて欲しかった.
一枚一枚,本の頁をめくるように紡がれてゆく,長くて深い恋.密やかな想い
を胸の奥底に閉じ込めたまま,過ぎていった30余年.
孤独と惑いを単調な生活に秘める美奈子と,美奈子にこだわりながらも妻と暮らし続ける槐多が織りなす,本格メロドラマ.〜ちらしより

今時,”メロドラマ”という語句を宣伝文句に使うのはどうかと思いますが(これを見て,映画を観ない人もいるのでは?),とにかく,主人公を演ずる田中裕子の演技が素晴らしいです.

主人公の美奈子(田中裕子)は50才,独身.坂のある街(ロケ地は長崎)で牛乳配達とスーパーのレジの仕事で生計をたてながら,日々,淡々と暮らしている.槐多(岸辺一徳)は同じ町に病気の妻と二人で住んでいる.美奈子と槐多は,お互いに対する幼い時からの恋心をずっと胸に秘めたまま,決して交わらない並行線のように生きてきた.それが・・・という話.

毎日同じことを,同じ時間に,同じように繰り返しながら淡々と暮らしていく,というのは,自分にとってはとても憧れる生活です.ストイックな生活.他の人から見れば,刺激が少なく,魅力に乏しい生活かもしれません.でも,些細なことにでも喜びを見出せる感性を持っていれば,その人の生活はとても瑞々しいものになるでしょう.これは矛盾した言い方ですが,単調な繰り返しの中にあっても(本人にとっては,そんなに単調ではない),その人なりに新鮮な興味を持って暮らしていけるのです.美奈子もそんな人です.

話は逸れますが,最近は何かと”イベントを求める”傾向があります.言うなれば,”イベント症候群”.”自分に刺激を与えてくれるイベント”を貪欲に求める傾向が顕著です.娯楽とそれにまつわる情報が巷に溢れ,それを追い求めるうちに,それに対する欲求を加速しているのでしょう.そして,イベントが終わって,欲求が満たされると,その経験を声高に主張するようになるのです.”感動をありがとう!”というフレーズが嫌いなのですが,それはそこに同じような匂いを感じるからです.

映画に話を戻しますと,舞台が坂のある街という設定とそれに伴う移動の大変さ(そこに暮らす人は大変とは思ってないでしょうけど)が,画面に軽快なリズムとテンポを与えています.牛乳配達するにも,移動するにも大変なんだろうなあと思いますが,自転車乗りの意見として,そして坂のない所に住んでいる者にとっては,それが羨ましくあります.



関連リンク:
・『茄子 アンダルシアの夏』
16:56 | Comment(2) | TrackBack(3)
Tags: 映画 movie いつか読書する日 田中裕子 岸辺一徳 緒方明 長崎
:: comments on entry
>些細なことにでも喜びを見出せる感性を持っていれば,その人の生活はとても瑞々しいものになるでしょう

眼の付け所がいいですね。
イベントの好きな私ですが、そればかりでは疲れてしまいます。
のんびりうちの風呂を楽しんだり、草むしりしたり、丁寧に掃除をしたり・・・。
そんな日々も、いとおしいものです。

コメントに感謝!
Posted by マダムクニコ at 2006/06/30 23:26

マダムクニコさん,コメントありがとうございます.
男性の方が淡々とした生活に,そしてそれは保守的でもあると言えますが,喜びを見出す傾向が強いのでは,と思っています.私もそんな一人なのですが,旅行などはしないならしなくても全く困りません.毎日,自転車乗っていられさえすれば,それがどんなに単調な生活でも満足なのです.安上がりな生活ですね(^^)
映画では,それを女性にさせていたので少し驚きましたが,そういう生活には共感したのでした.
Posted by yanz at 2006/07/01 10:23



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いつか読書する日
Excerpt: 2004年  監督:緒方明 脚本:青木研次 撮影:笠松則通 照明:石田健司 美
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